書評:ハッキング思考

「ハッキング思考」(英題:A Hacker’s Mind)という本を読んだ。もう三ヶ月以上も前になるが、思い出しながら少し書いてみようと思う。このブログについて何を書こうかと迷ったりしていたのだけど、このブログはたぶん自分のために書くのが良くて、それがたまたま誰かの目に止まれば良いなというように思うことにした。

A Hacker’s Mind

さて、ハッキングという言葉を聞くとコンピュータやプログラムのハッキングを思い浮かべてしまうが、この本で語られているハッキングはもっと広義のものだ。その定義からして興味深い。

ハッキングは不正行為とは違う。ハックが不正行為に当たることもあるが、たいていはそうではない。不正行為というのは、規則に反すること、すなわちシステムで明示的に禁止されている行為だ。

一緒くたにされてしまいがちなポイントである。しかし、著者はそれらを明確に区別している。

ハッキングは、システムを標的とし、システムを破ることなく、システム自体の裏をかく。車のウィンドウを割り、配線を直結してエンジンをかけるのは、ハックではない。キーレスエントリーシステムを欺いてドアを解錠し、エンジンをかけたら、それがハックだ。

ハッカーは不正行為を行うのではなく、システムの規則に存在する欠陥を見つけるのだと言う。さらに、ハッキングは有害なものばかりではなく、正しく使うことで、ハッキングを通じてシステムは進化して良くなっていくと訴える。

世の中はありとあらゆるシステムで動いている。 それらのシステムの裏をかいたストーリーがたくさん紹介されいてる。 例えばスポーツ界でのハックと呼べる事例だ。 F1では、FIAが定めた細かいルールの山がある。そのルールの裏をかいて車の性能アップを狙うのだ。 例えば、可動の空力機器が禁止されていたのだが、なんと車体に穴を開けてしまって、ドライバーが自分の足で自由にオン・オフできるようにしてしまった話などが紹介されている。 これは禁止事項として新たなルールが追加されたのだが、そうでなければ別のチームも翌年にはそれをマネしたりして、一般的な技術となっていく。

そういえば、大谷翔平のドジャース移籍の大型契約が大きなニュースだった。 野球球団は年間に支払える選手の年俸に制限がある。お金に余裕のあるチームばっかりが良い選手をそろえてしまうと、野球の試合が面白くなくなってしまうからだ。 しかし、大谷の巨額の給料を後払いにすることで、この制限をクリアしてしまうと言う。これも現実のスポーツ世界で起きているハックといえるのではないだろうか。 なぜなら、この手法を使えば球団は制限を超えて有力選手を手に入れられるし、ルール上は禁止されている訳ではないからだ。

意外と身近なところにも(不正行為ではない)ハックがたくさんあり、権力者ほどそのハックを利用しているというのも著者の主張である。一見読み過ごしてしまいそうな事件も、別の観点から見るとハックだったりする。最初はハックだったものも、模倣され、社会に受け入れられてごく普通のこととなってしまったこともある。この本を読むと、いろんなシステムを違う視点から見ることができる気もしてくる。自分が(広義の)システムを考える際にも役立つ思考だと言える。